第76章 これが幸せ
カカシ(いやほんと、嬉しそうだねシカマル)
それはそうだろうと、カカシはどこか遠い目を見せる。
シカマルが一年以上かけて、少しずつ縮めて来たキリとの距離。
それがある日を境に、キリは突然家を出て避けられ、原因もわからないまま話す事すらままならなくなったシカマルの悲しみたるや。
シカマルの今の気持ちは、凄くよくわかる。
またこうして仲良くやれて、それは幸せだろう。自分だってそう思う。
だが、しかし。
今のキリは以前のキリとは違う。
もうシカマルと同じ土台にはいないのだ。
彼女は。デートに誘うのに、勇気を振り絞るシカマルの百歩は先の、悟りの境地にいるのだ。
【生きていればそれだけで】
そんな標語を胸に生きている。
でも、こんなに幸せそうなシカマルを見て、先ほどの精一杯のシカマルの誘いを見て。誰がこのままじゃ駄目だ、もっと頑張らないと無理だよ。なんて、そんな酷な言葉を告げられるというのか。
ましてや、そうなった全ての元凶は。
カカシ(……俺っていうね)
口が裂けても言えやしない。
カカシ「……よーし、みんな今日は俺の奢りだ」
キリ「あ……でも、私みっつも頼んでしまって」
申し訳ないと、語尾を弱めたキリに、カカシは残像が出そうなほど高速で近付いて、キリの肩をそっと叩いた。
カカシ「キリは気にしないで、食べなさい。(シカマルと)仲良く食べなさい。むしろ何個でも追加していいから」
みっつと言わず、全メニュー頼んでくれればいい。むしろ、君たち二人にはもう有り金全部だって差し出したい。
いの「やだカカシ先生ってば、太っ腹!!」
チョウ「すいませーん団子おかわりと、ぜんざいきな粉餅大福栗饅頭……」
いえーいとテンションが上がっているいのとチョウジをよそに、キリとシカマルは、カカシの唐突な好意に不思議そうに目を合わせていた。