第76章 これが幸せ
シカ「それ……」
シカマルは、見覚えのあるその石に、視線を落とす。
それは、初めてシカクの治療室に駆け込んだ時に、キリが握りしめていたものだ。
あの時のキリは、ひとつしか持っていなかったが、どうやらそれは複数存在していたらしい。
当時、キリの手の中にあるそれに気付いて、それは何かと聞けば、キリは涙を流して首を横に振るだけだったが、一体なんなのだろうか。
同じように、興味を示したヨシノも、なんだなんだとキリのもとに歩み寄る。
シカク「あー俺が治療で慌ただしかったからな、悪い」
そりゃあ今、生死を彷徨っている人間が買ってくれたお揃いの土産だ。
そんな状況で、配れるはずもないかと、シカクは申し訳なさそうにしているキリに、笑顔を向ける。
シカク「キリ、今みんなに渡してくれるか?」
キリ「……はい!」
ようやく表情を明るくしてくれたキリは、ほんの少し紐部分の色が違うその石を、それぞれに手渡していく。
シカク「前に宝石商人の護衛についてな。その時の土産だ。何でも、持ち主に幸運を運んで、悪いものから守ってくれる最強の守護石らしい」
キリが選んでくれたのだと告げるシカクに、ヨシノとシカマルはまじまじとその石を見つめる。
シカ「へぇー、さんきゅーな」
ヨシノ「ありがとうね、大事にするよ」
キリに、そしてシカクに礼を告げた二人。そんな二人に、キリは説明を補足する。
キリ「手首や足首、他にも何か物につけたり、どこにでもつけていいそうです」
商人から言われたそれを伝えれば、奈良親子はそれぞれ、身に付ける事を選択したらしい。
ヨシノ「家事中はよく水を使うから、私は足首にするよ」
あまり頻繁に濡らしたり、汚したりはしたくないと、ヨシノは自らの右足首につける。