第76章 これが幸せ
シカ「俺も降りる」
火照る顔をパッと手で押さえて、シカマルは激しい動機をおさえるように目を瞑る。
ひとつ、そっと体を揺すって起こしてくれる。
ふたつ、優しい声音のおはよう。
みっつ、寝起き数秒でのキリの微笑み。
よっつ、一緒に降りる? のお誘い。
そんな幸せ4連撃を与えられて、寝起きからシカマルのヒットポイントが、凄い勢いで削られる。
シカ「!!」
すると、すぐに起きないシカマルを不思議に思ったのか、キリが顔を覗き込ませた。
キリ「本当に目覚めてる?」
シカ「っ……」
シカ(やべぇっつの……)
至近距離かつ無防備かつ無邪気なキリ。
可愛すぎて心臓が破裂するのではないかと思うほど、大変な事になっている。
こちらは寝起きなのだ。キリも少しは、手加減をしてもらいたい。
せっかく起きたというのに、覚めない眠りにつくかもしれない。
シカ「悪い……すぐ行く」
高鳴りまくっているそれを隠して、こんなにも普段のトーンで、言葉を発する事が出来た自分を褒めてやりたい。
シカマルが立ち上がろうとした時、目の前に差し出されたキリの手。
その意図を知るために手を辿って、キリの顔を見れば、手を貸そうかと言って、こちらを見つめるキリ。
シカ「…………」
心臓が。
全力で振りかぶった渾身の右ストレートを貰ったぐらいの、衝撃を受けた。
そこで、シカマルは悟る。
ああなるほど。キリは自分を仕留める気で、来ているのだと。
ぐらぐらとノックアウト寸前になりながら、シカマルはそれでも、ふと笑みを貼り付けて立ち上がる。
シカ「もう起きたっての、自分で立てる。さんきゅーな」
キリのその手を取れなかったのは、決してヘタレだからではない。
こちらも限界なのだ。色々と。