第75章 忠犬
キリ「シカクさんがいて、ヨシノさんがいて、彼も元気で、みんながいます」
それだけで、もう充分なのだとキリは笑顔でそう語る。
カカシ(あ……これはまずい)
本当に今回のシカクの一件は、キリの精神に、それはもう大きな打撃を与えたのだろう。
その結果。
【みんなが生きている。それだけで世界は素晴らしい】
どうやら、そんな標語がキリの中に出来てしまったらしい。
あれほどシカマルへの恋心に悩んでいたキリが、一歩前進、二步前進どころか、今回の事で百歩ほど先へ行き、もはや悟りの境地に達してしまった。
いったい何処へ行けば、齢12.13の思春期真っ只中の女の子が、好きな人が生きているだけで私は充分だと、満面の笑みを浮かべるというのか。
これなら、キリは辛いかもしれないが、もやもやうだうだと、悩んでいた時の方がまだ付け入る隙があったというものだ。
カカシの言葉がキッカケで、まさかこんな事になってしまうなんて。
カカシの身体に、だらだらと隠しきれない大量の汗が流れる。
このままでは、やばい。
シカマルが本当にやばい。
「君たち、両想いなんだからね!? お願いだからくっついてくれ」と。声を大にして言いたい。
カカシ「……その、じゃあ前に言ってた医療員の女の子と、またシカマルと3人で会う事になったらどうするの。木ノ葉にいる限り、ずっとそんな姿を、ただ見守っていかなきゃいけないよ」
現状を聞くだけ。そう思っていたが、あまりにもキリが、その道の先へと辿り着き過ぎていた。
だから、少し。そんな揺さぶりをかけてみる。
カカシ(お願いだから揺れて。キリ、ほんと、お願い)
真面目な表情の下で、カカシはそんな切実な願いを連呼する。