第74章 失くしたもの
顎を上げて、子どものように大声で泣き始めたキリに、今度はシカクの方が目を見開いた。
シカク「ま、待てキリ! 何もそんなに泣かなくたって、うぉ!?」
シカクに走り寄って、夢の中の時と同じように、腰もとにしがみついたキリに、シカクは狼狽しながらその頭をなでる。
シカク「お、おいキリ? 落ち着け、な? キリ、いい子だから、ほら」
キリ「うぁああぁぁシカクさっ、良かっ、あぁああ」
わんわんと泣きじゃくるキリをなでて、オロオロと慌てふためいていれば、視界にヨシノが近付いてくるのが見えて、シカクは天の助けだと言わんばかりに顔を上げる。
シカク「母ちゃん、キリが……っ!?!?」
キリが泣いてしまったと、助けを求めようとしたシカクの時が止まった。
ヨシノ「っ……本当に、心配かけて……っ」
声を殺して、涙を流すヨシノの姿に、さぁーっと血の気が引いた。
シカク「か、母ちゃ……」
ちらりと視線を落とせば、自らにしがみついて、泣き叫んでいるキリの姿。
ちらりと視線を上げれば、目の前には、耐えるように涙を流しているヨシノの姿。
いつもは、強くて気丈な二人のその姿に、顔面蒼白となったシカクは、口を開けたまま硬直するしかなかった。
シカク「か、母ちゃ……キリ……」
力いっぱいにしがみついて泣いているキリと、口もとに手を当てて絶えず涙を流し続けているヨシノ。
その姿に、今度こそ、本当に息が止まるんじゃないかと思った。
キリ「私っのせいで、シカクさ、ごめっなさ、うっ、もう会え、かと、良かっ……」
嗚咽が混じり過ぎて、もう大変な事になっているキリに、シカクは心に大ダメージを受ける。
ずきずきと、尋常ではないぐらいに痛む心。
必死でキリの頭を、抱えるようにしてなでまわして、どうにか落ち着かせようとするが、今度はヨシノの声が聞こえる。
ヨシノ「っ……本当に、良かった……」
シカク(………)
ヨシノの震えた声に、シカクの心はもはや致命傷を受けた。