第74章 失くしたもの
こんな風に先のことで頭を悩ませることも、最期を覚悟していた自分には、それは嬉しい悩みに変わってしまう。
そうシカクが、ふっと頬を緩めた時、シカマルが口を開いた。
シカ「親父、言っとくけどよ。これからが大変だからな」
そう言って、こちらを見つめるシカマルに、シカクは笑い声をあげて返答する。
シカク「治療もリハビリも、どれだけキツくても構いやしねぇよ」
一体誰だと思っているのだと、今ならどんな事でも乗り越えてやろうと、軽快に笑うシカクに、シカマルはふーんと怪訝な視線を向けた。
シカ「……まぁ、ならいいけどよ。俺は、忠告したからな」
仮にリハビリに、どれほど時間がかかろうとも。
治療にどれほどの痛みを感じても。こうして、家族にまた会えるのなら、いくらだって耐えてみせようと。
余裕の笑顔を見せるシカク。
そんなシカクのもとへ、駆け込んできた人物が二人。
バァンッと大きな音を立てて、治療室のドアが開かれる。
シカク「おぉっ!?」
その騒音に思わず、身を竦めたシカクは、ドアの方へ視線を向けた。
するとそこには、シカクが命をかけてでも守ろうとしていたキリの姿と、そのすぐ後ろにはヨシノの姿。
シカク(キリ……!)
シカクの姿を見て、まんまるに開かれたキリの瞳。
自らの足でしっかりと立っているキリを見て、あの戦闘での負傷も随分と回復しているようで、シカクは心の底から安堵する。
シカク「キリ……無事で良かった」
キリ「っ……」
「もっと近くに来てくれ」と、扉の方へ手を伸ばせば、キリはぎゅうっと目をつぶって、ぼとぼとと大粒の涙を流した。
キリ「うぅ……ぁあああぁぁあっ」
シカク「!!!」