第74章 失くしたもの
綱手がまだ火影になる前。
負傷したキリの治療を行ったが、その時に感じた異常なまでの回復力。
綱手「故郷で服用していた薬の影響だ。キリの身体がそう働くように、条件付けられている」
聞けば、赤ん坊の頃から行われていたという薬物投与。
繰り返し植えつけられた、キリの再生、修復に対する反応速度は凄まじいものがある。
綱手「シカクの体内にあるキリのチャクラが、シカクのチャクラと時間をかけて完全に融合し、その再生能力がシカクの身体にも作用した」
それは、死んでしまったシカクの臓器や機能を、再構築するように働きかけたのだ。
綱手「それでも……奇跡のような可能性だ。それを実現させたのは、キリの執念に他ならない」
綱手「だが……シカク、復帰するにはまだまだ時間がかかる」
リハビリも相当必要になるだろうと告げた綱手に、シカクはゆっくりと頷いて、それを受け入れる。
シカク「はい。こうして……生きて戻れただけでも十分過ぎるくらいです」
長期にわたる治療も、リハビリも、死ぬ事に比べれば有難いぐらいだ。
そう感謝するシカクに、綱手はそうかと笑みを見せる。
綱手「シズネ、キリとヨシノをここへ呼んでやってくれ。今もまだ上で肩の治療をしているはずだ」
シズネ「わかりました」
ぱたぱたと治療室を後にするシズネを見送ると、綱手はひとつ大きく息をついた。
綱手「さすがに疲れたな、私も少し休む」
ひらひらと手を振って、シカクたちに背を向けて歩き出した綱手に、シカクもシカマルも心深く礼を告げれば、綱手は部屋を出る直前で、顔だけを振り返らせた。
綱手「ひとつ貸しが出来たな」
「しっかり働いて返してくれよ」と、にやりと笑ってから扉を閉めた綱手に、シカクは思わず眉を寄せる。
どうやら、火影相手にものすごく高い借りを作ってしまったようで、その返済に追われる未来の自分が、容易に想像出来る。
そんな未来を慮って、苦笑いをこぼすシカクは、それでもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。