第74章 失くしたもの
キリが以前、医療忍術の練習をしていた頃、シカクも練習台になろうとした事があったが、シカマルの怪我を悪化させてしまったからと。
ほんのかすり傷だって、他人の治療を行う事を、断固拒否していたキリ。
シカク(キリ……)
そんなキリがあの状況下で、どんな思いでシカクに医療忍術を施したのかと思うと、胸が締めつけられる。
さらさらと、シカクの容態を記し終えた綱手。
シズネはそのメモを受け取ると、綱手に休息を促した。
シズネ「あとは私に任せて、綱手様は一度お休みになって下さい」
この三日、一度も寝ていないだろうと綱手を気遣うシズネに、シカクは目を丸くする。
シカク「まさか……ずっと?」
自分についていてくれたのかと、無意識にシカクの背筋が伸びる。
シズネ「火影の仕事を必要最低限におさえて、残る時間は全てシカクさんの治療にあたっていました」
綱手「……シズネ、いつから気付いてた」
シズネ「隠しているつもりでしたでしょうが、最初からです。バレバレですよ」
もう目が覚める事はないと、そう言いながらも時間を見つけては、治療に勤しんでいた綱手は、それが露顕していた事にぽりぽりと頭をかいた。
綱手「……シカク、お前が木ノ葉に帰還した時。目を覚ます可能性は確かにゼロだった」
それは覆る事のない、診断だったはずだ。
それでも、生きて木ノ葉に帰ってきてくれたのだから。
せめて、敵から受けた傷は癒してやろうと思った。その痛みだけでも、取り除いてあげたいと、そう思った。
その中で、ゼロだった可能性を1%でも上げることが出来れば、御の字だと綱手は思っていた。
綱手「だが、その途中でチャクラの動きが変わった」
シズネ「チャクラの……ですか?」
綱手「ああ。もともと、キリの再生能力は常識の範疇を超えていたが……」