第74章 失くしたもの
必死で、自分にしがみついているキリがここにいて。
頭の中には、ヨシノと、シカマルの姿。
木ノ葉隠れの里と、里にいる仲間達の姿。
歩いている時間が長ければ長くなるほど、身体の傷みなんかよりも。
みんなの事が浮かんで、まだ死にたくない。自分は木ノ葉の里で生きていたいと、心の底からそう思ってしまった。
ならばと。
どうせ、最後なのだ。
それならとことん悪あがいてやろうと、シカクは自らを呼ぶ暗闇に背を向けて、キリと共に歩き彷徨った。
シカク「そしたら、いつからか周りも明るくなってきてな。……気が付いたら、シカマル。お前が目の前にいた」
そう言って、優しい笑顔を向けたシカクに、シカマルの胸が決して嫌ではない痛みを感じる。
シカ「親父……」
「そうか、自分は本当に生きて帰ってこれたのか」と、シカクは自分の手に視線を落として、握っては開きを二、三度繰り返して、自らの生を確かめる。
そんなシカクに、綱手は歩みを進めると、そのままシカクに手を伸ばした。
綱手「シカク、どこか痛むところはないか」
そう言って、シカクの体温や脈を確認する綱手に、シカクは首を振って大丈夫だと否定する。
綱手「まだ少し脈は弱いか……」
ひとつひとつ、機能の確認をしていく綱手は、一度、じっとシカクの目を見つめる。
綱手「キリに、よく礼を言ってやれ。お前に医療忍術を施して、お前の命を繋げたのはキリだ」
シカク「!」
綱手「その腹の傷を塞いで、援軍が到着するまでお前にチャクラを送り続けた。夢の中で、キリがしがみついていると感じたのは、それのせいもあるだろう」
シカク「キリが医療忍術で……」
その事実を知って、シカクは身体に大きく残っている四箇所の刀傷を見つめる。