第74章 失くしたもの
あの戦闘で、敵から攻撃を受けた時、自らの最期を悟ったのだと、シカクはこぼした。
シカク「夢の中で、向こうに行かなきゃいけねぇと、ずっとそう思ってた」
そこは今いるところよりも、ずっと暗い場所ではあるが、自分はそこに行くべきなのだと自然とそう思った。
だが、しかし。
シカクは、眉を下げて困ったように笑みを浮かべる。
シカク「キリが、ずっとしがみついて離れねぇんだよな」
こう、自分の腰もとにしがみついているのだと、手ぶりでそれを表すシカク。
シカク「まさかキリまで、そこに連れて行くわけにもいかねぇしよ」
それから、ずっと。
痛む身体に耐えながら、キリに自分から、離れるように説得して。
普段、大抵のことは素直に言う事を聞いてくれるキリが、今回ばかりは何を言っても、頑として離れる事がないのだと、シカクは苦笑する。
シカク「そんな説得をひたすら続けてよ、その途中で気付いたんだよな」
シカ「?」
一体何に気付いたと言うのだと、首をひねるシカマルに、シカクは続ける。
シカク「キリが離れたとしても。俺が向こうに行っちまったらキリ一人、こんな場所で置き去りになっちまうじゃねぇかって」
周りも見えないほどに、真っ暗なこの場所に、とても残してはいけないと思った。
ひとまず、キリをもっと明るく安全な場所へ連れて行ってやらないと、心配で死にきれない。
そう思って、シカクはしがみついたままのキリを連れて、あてもなく歩き続けた。
もう何日も、ずっと歩いていたような気がする。
シカク「そんな事してたらよ。どんどん俺も、まだ向こうへは行けねぇと思った」