第74章 失くしたもの
シカ「キリを支えるどころか、逆に俺が支えられるしよ」
キリは、散々泣き散らして二人で重なり合って眠ったあの時以来、眠りについていない。
ここで。治療室に初めて来た時こそ、取り乱していたキリだったが。
その後は、ヨシノとシカマルの方がずっと辛いはずなのに、その元凶であるキリが辛いなんて嘆く事を許さず、シカマル達の前ではそれを見せてくれなくなった。
それからは、フラリとたまに何処かへ姿を消しては、シカクのいる治療室に戻る。それを繰り返している。
シカ「どうしたらいいのか、考えてもわからねぇ」
家長であったシカクの跡を継ぐために、シカクに今まで教わった知識と、残された資料を手に、その仕事に時間を費やすが、何せ膨大なその量にとても手が回らない。
シカ「教えてもらってねーこと……まだいっぱいあんだよ」
シカクの教えなくして、どうやって影の使い手になれるというのか。
一人前の男に、一人前の忍に、なれるというのか。
シカ「酒、一緒に飲むっつったじゃねぇか」
初めて一緒に酒を飲む相手は、シカクだと決めていた。
二十歳になれば極上の酒を両手に持って、シカクと共に過ごす夜を、シカマルだって楽しみにしていた。
シカ「っ……なぁ、聞こえてんだろ」
ヨシノを見ても、キリを見ても。
〈家〉を見ても……どこ見ても、シカクの抜けた穴を、埋められる気がしない。
全員が無理をして、崩れそうな心を精一杯隠しているだけだ。
まだまだ、シカクは必要で。
この喪失感をどう表せばいい。
突き上げるように、無限に溢れ出すこの悲しみを、どうやって乗り越えればいいというのだ。
シカ「いい加減……っ、目ぇ開けろよクソ親父」
ギュッと、握りしめたこぶしは、指先が真っ白になるほど強く握られていて。
何度も繰り返し行ったその行為に、手のひらには、幾重にも爪痕が残されている。
そうやって、乗り越えられない悲しみに耐えていた時。
シカマルの耳に、幼い頃から慣れ親しんだあの声が、届いた。
シカク「っ……誰が、クソ親父だ馬鹿息子」