第74章 失くしたもの
きっと、敵がキリに捕縛ワイヤーを使おうとした時に、シカクは確信したのだろう。
思い返せば、それからシカクはずっと、自分のそばから離れるなと、そう言い続けていた。
キリ「どうして教えてくれなかったんですか……!! シカクさん!」
ただでさえシカク一人ならば、敵を倒すことは不可能でも、隙をついて逃げ切る事ぐらいは成せる可能性が充分にあった。
そこで足を引っ張ったのは、キリであったのに。
狙いがキリ一人ならば、自分が向こうへ行けば、それで済んだ話だ。
長期戦になっても、生かして捕まえようとしていたぐらいだ。
何が目的かはわからないが、捕まってもすぐに死ぬような事にはならないだろう。
一旦シカクと別れ、援軍をつれてシカクが戻ってきてくれれば、良かったのではないか。
なんなら一度、木ノ葉に戻り、しっかりと体制を整えてからでもいい。
その可能性は少ないように思うが、救出に来れなくなったり、目録外れてキリが殺されても、それはそれで構わない。
シカクを失う痛みに比べれば、ずっとずっと良い。
それなのに。
【お前のことは、絶対に俺が守る】
シカクは、キリを敵に渡さない選択肢を選んだ。
【キリ、俺のそばから離れるな】
キリ「っ……」
シカクは、キリをその身ひとつで守り抜く選択肢を選んだ。
そんなシカクの優しさが、キリの心を深く抉る。
キリ「私のせいで……っ」
キリは物心ついた頃から、強くなりたかった。
順位や名誉には、まるで興味はないが。
ただ戦場で、誰かを守れるだけの強さが欲しかった。
仲間を助ける事が、出来るだけの強さが欲しかった。
それが、今ではどうだ。
故郷の樹の里では、その手でたくさんの同郷の命を奪いとって。
そんなキリを受け入れてくれた木ノ葉隠れの里では、命懸けでキリを守ったフミに続き、シカクまでが命を落とそうとしている。