第74章 失くしたもの
キリ(…………)
医療員達の労いの言葉に、ぴくりと反応を見せたキリだが、ヒナタはそれが示すものがわからずに、小首を傾げる。
ヒナタ「キリちゃん?」
キリ「……どう、して……?」
自分を励ますための言葉だったのだろうそれに、キリはひどく違和感を覚えた。
何故、自分は今生きているのか。
ふと、キリは疑問に思う。
それは、自分なんかよりもシカクが助かれば良かったなんて、嘆く意味合いのものではなくて。
二十を超える敵の人数。
シカクとキリの戦闘能力と、当時の状況を思い返せば思い返すほど、その疑問は深まるばかりだった。
あの絶望的な状況下で、何故シカクは危篤状態となり、キリは生還出来たのか。
キリ(忍として、充分な力があった……から……?)
シカクはキリの事を、そう評価してくれていた。
確かに、シカクが相手をしていた強者3名を除けば、キリではまるで相手にならないような忍はいなかったように思う。
しかし、キリはあの中で飛び抜けて強さがあったわけでもない。
シカクの手厚いサポートがあったとはいえ、とてもあの死線を越えられるレベルでは……ないのではないか。
キリ「っ……」
そこまで考えて、ようやく。
ある事に気が付いて、ヒュッとキリの息が止まった。
キリ「まさか……」
あの時。
キリたちを追い詰めた時に、敵はどんな対応をとっていたのか。
キリ(捕縛ワイ、ヤーを……)
敵から猛攻を受けていた時、敵はキリを捕らえようとした。
キリ「……はっ、はぁっ……」
浅く刻まれる呼吸に、どくどくと、心臓が早鐘のように鳴り響く。
キリ(シカクさん、には……)
殺せと。
躊躇いもなく、致命傷を与えようとしていた敵は。
どうして、今まで気が付かなかったのか。
あの敵群の目的は。
キリ「私……?」
何かが、壊れた音がした。