第74章 失くしたもの
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それから二時間ほどが経過して、その間キリは、何度もシカクの眠る部屋へ、出たり入ったりを繰り返している。
その間シカクへの接し方は毎度異なり、非常に不安定なキリの様子は、見ていて心配になった。
そんなキリに、ヒナタは何も言わずに寄り添い続け、キリに名前を呼ばれればそれに返事をして、キリの名前を呼び返して。
そうしてヒナタはずっと、ふらふらと彷徨うキリの体を支えていた。
今は治療室でシカクの手を握って、じっとシカクを見つめていたキリのもとへ、二人の医療員が近付いてくる。
『失礼します』
ヒナタ「!」
『キリさんに、薬をお持ちしましたが……説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか』
異質な空気を感じ、哀憫の表情を浮かべて眉を下げた医療員達に、ヒナタが代弁した。
ヒナタ「わ、わたしが聞きます」
『そうですか……では』
説明とともに塗り薬と包帯を差し出されたヒナタは、それを受け取る。
薬といっても、キリに治療薬の効果は期待出来ないため、ただ傷口の感染を防ぐためのものだと言って渡された薬。
朝昼晩と、日に三度包帯を取り替えてくれと言われたそれに、ヒナタが一つ一つ頷いていけば、説明を終えた医療員達が、キリをねぎらう言葉を残していく。
『……お疲れ様でした。大変な戦いだったそうですね』
『よくご無事で。貴女だけでも生還して下さった事は、私たちにとってとても有り難い事です』
木ノ葉隠れの仲間が、一人でも多く無事に帰還してくれることが、自分たちの何よりの願いなのだと、医療員達はキリに礼を告げて。
どうか今は、体を休めてくれとキリの体を配慮しながらも、二人は治療室を後にした。