第74章 失くしたもの
キリ「も、もうすぐっ……ヨシノさん達もここへ……っ」
もうここはシカクの生まれ育った故郷で、ヨシノとシカマルもいる。
シカクを待つ家族が、必要としている人がいるのに。
キリ「っ……シカクさん、お願いします! 目を……っ」
開けてくれと、シカクの手をぎゅっと握って頼んでも。
その手を握り返してくれることはない。
この状況が、本当に理解し難くて。
いや、本当は。わかっているが、頭がそれを受け入れる事を拒絶する。
キリ「シカクさん……」
ふらりと、立ち上がったキリは、おもむろに治療室を後にした。
ネジ「キリ……っ」
キリの姿と、表情を見た時。
ネジは大丈夫かなんて、そんな陳腐な言葉をかける事が出来ずに、それを飲み込んだ。
壊れるのではないか。
初めて人に、そんな思いを抱く。
先ほど、ヒアシはキリ達と合流した時の詳しい状況を聞くために、本部に呼び出され、キリを気にして後ろ髪を引かれながらも、そちらへと向かった。
現在ここにいるのは、キリとネジ、そして一つ扉の先にシカクがいて。
今、キリのそばにいるのは自分では、駄目だと。そう思って、ネジはくるりと踵を返した。
ネジ(ヒナタ様を……!!)
キリ一人ここへ残すことに不安を覚えたが、歯痒いが自分では、今のキリを支えるには荷が重すぎる。
ネジ「白眼!!」
病院を出てすぐに、白眼を発動させて、ヒナタの捜索にあたる。
キリ達の援軍に向かう前、本当はヒアシとネジと共に、ヒナタもその場にいた。
キリの援軍に、行きたい気持ちは強かったが、自分が足手まといになる事を考えて、苦渋の思いで断念したヒナタ。
任務の予定はないのに、自身の力が足りないから、キリの助けになれないと。自らを責めていた彼女は、里内のどこかにいるはずだ。
ネジ(早くヒナタ様をお連れしなければ……)
キリの心は、もう限界のように思えた。