第74章 失くしたもの

キリ「私が、チャクラを分けて……その間に……また治療はして貰えないのでしょうか」


堪らずに抱きしめたキリの小さな身体が、深い悲しみと恐怖に震えているのを感じて、綱手の目から一筋の涙が流れた。


綱手「すまない、キリ……もう、これ以上治療をしても、シカクが目を覚ます事はない」


「助けてやれなくてすまない」と、何度も何度も告げる綱手。


ぽたりと一つ。キリの手の上に落ちた綱手の涙に、キリは、力なくその手を降ろした。


少しの静寂が二人を包んで、最後に綱手はぎゅっとキリを強く抱きしめてから、その手を離した。


綱手「キリのチャクラが無くなるまで、後２～３日といったところだろう。……その間に、別れの挨拶をしてやってくれ」


「シカマルとヨシノも、あと数時間もすれば到着する」と、そう言い残して、治療室を後にした綱手。


そして残されたキリは、シカクにゆっくりと身を寄せる。



キリ「シカクさん。木ノ葉に……戻ってきましたよ」


そっと手を握れば、シカクの手はあたたかくて。

シカクが生きている事を、実感する。


キリ「ふ、二人が助けに来てくれて、ヒアシさんが、敵を……」


もう自分たちを取り囲んでいた敵は、どこにもいない。

もう、危険は過ぎたのだ。


キリ「シカクさん、目を開けて下さい……」


あとは、目を開けてくれれば、それだけでいい。


こんなにも、穏やかな表情なのに。

体を見れば、小さく上下する胸は、シカクが息をしている事を示しているのに。


キリ「シカクさん、お願いします……起きて下さい。シカクさん……」


なのに、もう。ただシカクが息を引き取るのを、待つだけしか出来ないのか。