第74章 失くしたもの
綱手「キリ。蘇生術の経験は?」
キリ「蘇生術……?」
首を傾げた後に、キリはありませんと告げた。
それを聞いて、ぎりぎりとキツく握り締めた綱手の拳から、血がポタリと落ちる。
綱手(やはり……)
荒削り過ぎるキリの治療。
知っていれば、また違う結果になったかもしれないが、その知識がないから。ただ本能で、シカクの生命維持に徹したのだろう。
その結果、シカクの息はあれども、生きる上で重要な他の機能が死んでしまった。
ただシカクを救いたい一心で、身を削りながら延命させたキリに答えられないことが、酷く不甲斐ない。
綱手「シカクにこれ以上の治療は……出来ない」
一度死んでしまったその機能を、治すことはもう出来ないのだ。
何のために、医療を学んで来たのか。
里一番の火影を名乗りながら、この小さな少女の願いすら叶えてあげる事が出来ないのか。
そんな想いが、綱手の胸を占める。
綱手「生きて、木ノ葉に生還出来た事が奇跡だったといえる。何よりも、生命を維持する事が出来る出血量じゃなかった」
キリ「……っ」
綱手「無意識の中でお前が行っていたのは、蘇生術だ。……今は、キリのチャクラがシカクの体内に残っているから、命が繋がっている。それが、無くなればシカクも……」
その先を、告げなかった綱手に、キリの心臓がドクドクと嫌な音を立てていく。
キリ「それ、なら……私がまたシカクさんにチャクラを分ければ……!」
シカクは、生きる事が出来るのではないか。
本当を言えば、正解か不正解かもわからないまま、シカクの生死を動かす医療忍術を使うなど、恐怖でしかない。
それに、あの時は無我夢中だった。
自分がどんな治療を行ったのかも、わからないが、それでも。
可能性があるのならば、何度だって。
そう告げても、綱手は小さく首を振るだけだった。
キリ「せ、成功させてみせます! ……必ず!」
覚悟を決めて、恐怖に震える手を、シカクの体に当てた時。
ふわりと後ろから、綱手に抱きしめられる。
綱手「すまない……」