第74章 失くしたもの
すると顔を歪めて、視線を下げた綱手に、キリは呼吸をするのを忘れる。
身体中の血液が、足の方へと下がっていったのが、自分でもわかった。
綱手「……すまない。手は尽くしたが……」
キリ「……?」
ギュッと、拳を握りしめてそう言った綱手の言葉が、すぐに理解出来なかった。
綱手「っ……すまない」
力を入れ過ぎて、震えている綱手の拳に視線を落として、ぼんやりとそれを見つめていれば。
キリの頭がゆっくりと、理解したくないその言葉の意味を、飲み込んでいく。
ネジ「キリ!」
唐突に、体の力が抜けて、キリはぺたりとその場に座り込んだ。
そんなキリを支えて、何か言葉をかけてくれているはずのネジの声が聞こえなくて。
キリは真っ青な顔をして、ガタガタと震える手で口もとを押さえる。
キリ「あ……ぁ……」
そんなキリの姿を見て、綱手はゆっくりとキリを支えて起こすと、治療室の中へと導いた。
キリ「シカクさん……」
治療室の中では、シカクを中心にして、床に何重にも印が複雑に書き込まれている。
もはや解読不可能なそれは、相当に高度な医療忍術が、ここで行われていたことを示していた。
綱手「まだ、息はある」
キリ「!!」
その言葉に、目を見開いて綱手を見上げたが、やはり綱手の表情は暗いままだった。
キリは言葉にならないまま、ひとつひとつ紡いでいく。
キリ「私の、医療忍術が失、敗していたから、ですか」
綱手「そうじゃない。腹部で致命傷となっていた傷は、塞がっていた」
震えるキリの言葉を、綱手は否定する。