第74章 失くしたもの
日向家当主から頭を下げられた医療忍者は、慌ててそれを承認した。
『わ、わかりました! 頭を上げて下さい! では、この場で治療を始めさせて頂きますが、よろしいですか』
充分な設備はないがこれ以上は譲れないと、眉を下げてそう言えば、キリもそれに頷いてみせる。
キリ「ありがとうございます」
「まったくもう」と治療を始めた医療忍者と、キリを庇って頭まで下げてくれたヒアシに礼を言えば、ヒアシは小さく微笑み返してくれる。
ヒアシ「構わん。気にするな」
それから、キリの治療はものの数十分で完了した。
その後は、ネジが時折、キリの体を気遣う言葉を落とす以外、キリ達は重たい静寂に包まれて。
短いとも長いとも、言えない時間が流れた時だった。
キリ.ヒアシ.ネジ「!!」
治療室の扉が開いて、そこから現れた綱手の姿は、酷く疲労困憊しているように見えた。
キリ「火影……様」
実のところ、キリは少し安堵していた。
シカクが、生存して木ノ葉に戻れさえすれば、後はどうにかしてくれると。
綱手が火影になってから、木ノ葉の医療忍術は各里と比べても、トップクラスだと言われている。
そして、医療忍者として綱手を越える者は、ほんの一握りであると。
そんな綱手が、直々にシカクの治療に当たってくれたのだ。
きっと、シカクは目を覚ましてくれると思った。また、あの口角をあげて、自信に溢れた笑みを見せてくれると、そう思っていた。
キリ「っ……」
でも、おかしい。
シカクはどうなったのかと、聞く事が出来ない。
おかしい。
何故、綱手はそんな表情で、こちらを見るのか。
何故、そんなに辛そうな顔で。そんなに申し訳なさそうな顔で。
こちらを見ているのか。
助かるのではないのか。
もう大丈夫だと、そう言ってくれるのではないのか。
キリ「火影様……?」
シカクは無事かと聞けずに、キリが精一杯に出せた言葉がこれだった。