第73章 願い
そうして、現在。
シカクたちと合流を遂げたヒアシは、ちらりと、現在瀕死状態であるシカクに視線をくべて、愚痴をもらす。
ヒアシ「……実に忌々しい」
以前、キリを巡っての一悶着があった際。
〈万が一の時〉について、話をしたことがあった。
影の結界の解術方法も、その時に言われたものだ。
そして、万が一。シカクが命を落とすような事態になれば、キリの事をよろしく頼むと、頭を下げたシカクの姿が思い浮かぶ。
先ほどまで火花を散らしながら、牽制し合っていたというのに、唐突に真面目な面持ちでそんな事を言うものだから。
呆気にとられたヒアシは、一瞬驚きの表情を浮かべたが、それを了承しようと、こちらも居住まいを正した時だった。
シカク「まあ、万が一にもそんな事にはならねぇけどな。キリはそう簡単にはやらねぇよ」
ヒアシ「!!」
あの時、ニヤリと口角を上げて「期待したか、残念だったな」と、笑い声を上げるシカクには、殺意すら芽生えた。
ヒアシ「……あの時、そう言ったのはお前だろう」
「約束を違える気か」と、こぼしてみても、もちろんの如くシカクからの返答は得られない。
キリの後見人になることは、願ってもない。
たが。
ヒアシ「こんな形で預かるなど……不愉快の他ならん」
そんなことはせずとも、こちらは真っ向勝負を挑むつもりだ。
こちらが、どれほど強力な後ろ盾を保持していると思っているのか。
キリとヒナタが懇意な仲なのは当然ながら、最近ではハナビもキリの事をお姉ちゃんと呼び始めた。
後ろ盾は、強力な二枚盾へと成長しようとしている。
非常に良い傾向であり、着々と準備は進んでいるのだ。
キリのそばでニヤニヤと余裕な笑みを浮かべているシカクの足もとを、それはもう盛大にすくってやる準備が。
それに。
ヒアシ「まだ決着はついておらん」