第73章 願い
ヒアシ「カツユ殿が付かずにいて、キリの容態が急変することは?」
カツユ「それもありません。これだけ自己治癒能力が高ければ、これから危険な状態になることは、万が一にもないでしょう」
その言葉を聞いて、ヒアシは再度、ぐっとシカクを持ち上げる。
ヒアシ「ネジ、先に行く。木ノ葉まで後二日……追っ手の姿はないが、決して油断するな」
「キリを任せられるか」と問えば、力強く眼差しを見せて頷いた甥に、ヒアシは視線を前方へと戻した。
ヒアシ 「聞こえたか。キリは見事に耐え抜いた。……お前も師なら耐えてみろ」
ぐっと地面を踏み込んだヒアシは、これまでよりも速度を上げて、木ノ葉への帰還を目指した。
表情を険しくしたヒアシは、悪態をついて、少し前の出来事を思い返していた。
ヒアシ「……一方的に話しおって」
…………………………
約四日前。
綱手のもとにシカクの救援要請が届いた際、まず探知能力の高い者が、その候補に選ばれた。
依頼内容と、依頼主の名前を聞いて、即座に名乗りを上げたヒアシ。その時同じ場所にいて、同じくキリとシカクの援軍を申し出たネジを連れて、ヒアシは木ノ葉本部へと急ぐ。
すると、援軍のためにフォーマンセルの人員を組み上げようと、慌ただしい動きを見せている本部。
ヒアシ「!」
その間に、何か情報はないかとシカクからの救援要請に目を通せば。
場所や状況が書かれた他に、シカクの死後に対する伝言が残されていた。
それを要約すると、息子のシカマルに奈良家の後を一任すること。キリは本人の意向を第一に、後見人にヒアシを推薦し、成人するまで任せること。
その二つが記されていた。
ヒアシ(愚かなことを……)
それを見て、事態の緊急性を察知する。
時間が惜しいと、制止する本部を振り切って、ネジと二人で里を発とうとした時。
綱手よりカツユのお供をつけられ、半ば無理やりにではあったが、出発を許された。