第73章 願い
カツユ「……実に惜しいですね」
ぼそりと小さく落としたそれは、何処へともなく消えていく。
何も知らぬままで、ここまでシカクを延命させる事に成功した。
これが、キリがきちんと医療忍術を教わっていたならば。
もし綱手のもとで医療忍術を学んだ後であれば。
カツユ(一年あとなら、救えた命でしょうに……)
シカクの身体に残してきた5体の分身から、シカクの身体に関する情報を共有する。
カツユ「………」
何度見直しても、シカクが木ノ葉隠れの里に生還する可能性は無い。
いまもなお、シカクに息があるのは、その身体に残った大量のキリのチャクラによる余韻のようなもの。
それが消えるのも、時間の問題だ。
効率を考えると、シカクの治療を中断して、キリの治療にあたりたい。
キリも決して、死の危険がないわけではないのだから。
カツユ(ですが……)
【……っ、よろしくお願いします】
あんなに衰弱した危険な状態で、一縷の望みに縋るようにキリに後を任されては、簡単に切り捨てる事も出来ない。
カツユ(……いけませんね)
随分と長く生きているが、幼い光を目の前にして、こんなにも甘い判断を下してしまう自分に苦笑する。
カツユ「この方が亡くなった瞬間、それ以上の治療は中止し、キリさんの治療にあたります。……それで宜しいですか」
そう言ってカツユは、シカクの姿を見てからずっと、表情の険しいヒアシを見上げる。
そんなカツユの言葉に、珍しく歯切れの悪いヒアシも、同意を示した。