第73章 願い
カツユと呼ばれたナメクジは、ゆっくりとシカクの腹部へ移動を始める。
そして、患部を診たいので止血テープを外してくれと告げるカツユに、ヒアシは手早く何重にも巻かれたテープを取り去っていく。
カツユ「………」
じっと患部を見つめるカツユに、痺れを切らして、キリは震える声を振り絞るようにして口を開けた。
キリ「シカクさんは助かりますか」
カツユ「傷は塞がっていますが……危険な状態です」
早急に木ノ葉隠れの里へ、戻る必要があると、カツユは告げる。
カツユ「キリさん、それは貴女もです。深刻なチャクラ不足に陥っています」
血の気の無いキリの顔色。
ガクガクと震えている身体に、不規則な呼吸。
さらに、激しい眩暈と嘔吐感に襲われ、低体温になっているキリの状況は非常に芳しくない。
そんな中で、ネジに制止されているものの、シカクに医療忍術を施したい気持ちが強いのだろう。
手のひらから、微弱なチャクラが漏れ続けているキリ。
一刻も早く、不安定なこのチャクラの動きを落ち着かせてやらなくてはいけない。
キリ「でもっ」
カツユ「私は五代目火影、綱手様に口寄せされてここを任されています。この方は、ここから私が診ます。貴女は自分の身体を優先させて下さい」
カツユがシカクの腹部へと這い登り、施術を開始してようやく。キリは少し冷静さを取り戻したようだった。
キリ「……っ、よろしくお願いします」
ギュッと強く手を握って、頭を下げたキリはふらふらな状態で立ち上がる。
里へ戻ろうと歩を進めるが、キリはがくりと膝から崩れて座り込んだ。
ネジ「キリ!」
その姿を見て、キリの体を支えるネジと、シカクを抱えて立ち上がるヒアシ。
ヒアシ「ネジ、お前はキリを頼む」
ネジ「はい。キリ、乗れ」
そう言って、背中を見せるネジに、キリは数瞬動きを止めたものの、今の身体では里までの道を急ぐのは困難であると判断し、それに従った。
キリ「ごめんなさい。ありがとう」