第72章 選択
止血テープを何重にも巻いているのに、じわじわと赤い模様が広がっているシカクの傷口を、広げるような真似をすれば、どうなることか。
考えなくてもわかる。
キリ「はっ、はっ……」
シカクの腹部で広がり続ける血模様。
脳裏に浮かぶ過去の医療結果。
迫るタイムリミットと、リスクの大きさ。
その重すぎるプレッシャーに、キリの呼吸は浅く刻まれる。
キリ「シカクさん……っ」
溢れる涙がぽたぽたと、震える手の上に落ちる。
こうしている間にも、シカクの命はどんどん削られているのだと。
何か対処しなくては、そのまま最期を迎えるのだから、早く施術しなくてはいけないと。
充分わかっているのに。
成功した事もない術を、ましてや自分ではなく人の命に関わるこんな危険な状態で行う恐怖が、キリを襲う。
先ほどから急に、酸素が薄くなったのではと思うぐらいに、息が苦しい。
キリ「!!」
もう一度、シカクの脈をはかれば、先ほどよりも小さくなっているそれに、キリの鼓動は尚更速さを増した。
キリ「はっはぁっ、すー、はぁ」
恐怖と焦り。ただそれだけが、キリの感情を占める。
情けないぐらいに、ガタガタと震えている体と、冷たくなる手先。
浅い呼吸の中で、無理やり深呼吸をするように努めて、キリは震える手にチャクラを込める。
キリ「かっ、過度に、チャクラを……送り過ぎない」
相手のチャクラと自分のチャクラを融合させる。
チャクラの乱れを整えて、繋げていく。
以前、サクラから言われたその教えを、何度も何度も反芻して、涙をこぼしながらも、キリは施術に集中する。
キリ(神様、お願いします)
もしいるというのならば、もう生涯願い事はしないと誓うから。
医療忍術の成功を、シカクの命を、どうか救って欲しいと。
キリは縋るように祈りを捧げる。