第72章 選択
医療忍術の才能の無さがとんでもないと、サクラに豪語された自分が。
シカクに、施術しなくてはいけないのか。
キリ(こんなことなら、もっとちゃんと教えてもらえば……っ)
良かった。と、後悔しても後の祭りで。
キリはカタカタと震える手を、シカクの腹部の上にかざす。
【いい? 負傷部分でチャクラの流れは途絶えるから、それを他と繋げてあげるの】
以前、サクラから教えてもらったそれを、キリは頭の中で反芻させる。
キリ(まずは、負傷部分を明確にしないと)
ぶん……っと、キリの手にチャクラが集まり、シカクのチャクラの流れを探れば、負傷箇所でぶつりと切れているのを見つけ、キリは一度大きく深呼吸をする。
キリ「これ、を……他の、流れと綺麗に繋げるイメージで……」
体全体が震えて、カチカチと歯が当たる音がする。
キリ「っ……」
サクラの教えを繰り返すが、なかなかそれを実行に移すことが出来ない。
キリの脳裏に浮かんで来たのは、チャクラを込めた瞬間、ボロボロに崩れてしまった練習用の医療人形の姿。
そしてあの日、練習台となってくれたシカマルの姿。
腕を負傷していたシカマルに、キリが医療忍術を施せば、途端に血が吹き出して、ドクドクと流血していた。
当時のシカマルの怪我は、確かに傷はあったものの血が溢れて止まらないほど、酷くはなかったのにも関わらずだ。
つまり、あの日、キリは治すどころか、怪我を悪化させるだけに終わった。
その後も、何度か練習は試みたのだが。
自分自身の治療はある程度出来ても、いざ人形に試すとまるで駄目だった。
何度やっても、人形は崩れていくばかり。
それを。
今のシカクに行うのは、どれだけリスクを伴うことか。
もしまた悪化させてしまったら。それは、間違いなくシカクの死を早めるだけだ。