第72章 選択
キリ「っ……」
ふるふると小さく首を振るキリが、再び涙をこぼす。
キリ「嫌です、シカクさんがいないと……っ」
大丈夫などではないと、涙声を落としたキリに、シカクは困ったような嬉しいような笑みを浮かべる。
シカク(里に戻れば……)
今回の戦闘での、キリの勇敢な戦いぶりを、たっぷりと褒めてやりたかった。
一晩中どころか、三日三晩褒めちぎってやりたいぐらいの戦果を、そう出来ないことが心残りだが。
シカク(あと、心残りといえば……キリの花嫁姿と……)
シカマル、キリの孫の顔と。
しわくちゃになった自分とヨシノの穏やかな老後の生活と。
シカク(……いけねぇ、あんまり思い返すと)
シカクの待っている人生が、幸せ過ぎて。
それを思うと、少し寂しくなってしまう。
シカク(っ……!)
この期に及んで、生を夢見た自分への戒めのように、ひときわ傷口に痛みが走った。
キリ「!!」
ついに、頬にあったシカクの手が、力なく地面へと落ちる。
シカク「キリ、母ちゃんとシカマルのこと……よろしく頼むな」
キリ「シカクさんっ! 待って下さい!! お願いします、いかないで」
縋り付くキリに、小さく口を開いたシカクは、言葉を発する前にその目をゆっくりと閉じた。
キリ「シカクさん!!!」