第72章 選択
痛みに苦笑しながら、シカクはじっとキリの瞳を覗く。
シカク「キリ、さっきも言ったがお前はもう忍として充分な実力がある。それに、まだまだ伸びしろを残してる」
息が荒くなってきたシカクに、キリはこれ以上、止血の薬を塗るのは諦めて、止血テープを巻いていく。
シカク「……さっきの戦闘も、最高の動きだった。中々いいコンビネーションだったじゃねぇか」
「よくここまで成長してくれた」と、微笑むシカクに、キリは何重にも止血テープを重ねていく。
シカク「担当上忍なんて、初めての経験だったが……やってみるもんだな。こんなに、大切な仲間に会えた」
キリ「っ……」
そう優しく目を細めたシカクの上に、ぽたりと、キリの涙が落ちる。
キリ(テープがもう……!)
重ねても重ねても、赤く染まっていく止血テープ。ついに手持ちの分が底をついてしまった。
シカク「お前は誰よりも優しい奴だ。努力も惜しまず、仲間思いで……ぐっごほっ」
キリ「シカクさん!!!」
苦しげで絶え絶えの呼吸音をもらすシカクは、終始穏やかに語る。
シカク「キリが里に来たばかりの頃は、どうなることかと思っちゃいたが……」
話しかけても話しかけても、笑顔どころか会話すらままならなかったキリが、今では懐かしく思えて、シカクはくつくつと笑い声をもらす。
シカク「今はもう……大丈夫だな」
木ノ葉でもたくさん、キリを愛してくれる者がいて。
キリもまた、そんな人達を大切に思っている。
ゆっくりとキリの頬に手を伸ばせば、キリの白い肌にシカクの血が付着してしまったが、こんな時間ももう終わりなのだから、見逃してもらうことにしよう。