第72章 選択
第72話 選択
キリ「シ……」
シカクの正面にいるはずの敵。
それなのに、今。
シカクの後ろ姿を見ているキリは、シカクの背から敵の小刀が二本生えているのが見える。
キリ「っ!!」
突如、敵からぐっと頭を押さえつけられたキリは、べしゃりと地面に顔をついた。
だが今はそんな痛みなど瑣末なことで、シカクのもとへと視線を上げれば。
シカク「くっ……」
ゆっくりと引き抜かれた二本の小刀は、再びシカクの体に深く刺し込まれて、貫通する。
ぼたぼたと、シカクの足もとを赤く染めているのは、シカクの血液なのだと理解するのに、数瞬必要だった。
キリ「あ、あぁぁぁああああ!!!」
怒声とも悲鳴とも言えない叫び声。
理性は飛び、気が付いた時には、すでにシカクの体を貫いた敵に、刀を振りおろした後だった。
このまま敵の心臓に刀を突き刺して殺してやろうと、キリの構えた腕が、唐突に後ろへと引かれる。
シカク「キリ」
キリ「!」
その声に振り向けば、血だらけのシカクは苦痛に顔を歪めながらも、口もとには笑みを携えていた。
シカク「それは、お前にはまだ早い」
キリ「っ……」
刀をおろしてくれと、微笑むシカク。
我に返ったキリは、ギュッと眉根を寄せて、シカクの体に手を伸ばした。
シカクの体を支えれば、すぐにその身を預けてきたシカクのずっしりとした重みが腕にかかる。
シカク「悪い。そのまま支えててくれ」
そう言って、シカクは血が溢れ続ける腹部から手を離して、印を組み始めた。
『捕らえろ!!』
迫り来る敵を見て、シカクはニヤリと口角を上げた。
シカク「もう遅ぇよ。秘伝•影陣壁!!」
キリ「!!」