第71章 真っ向勝負
脱力したキリのしなる腕に打たれた敵が、その威力に少し後退する。
そこへ畳み掛けるように追撃を……と思いきや、キリは振り返り少し離れた敵へ起爆札付きの手裏剣を放つ。
『なっ!?』
ほんの少し、爆風に巻き込まれたキリは、その勢いを利用して繰り出した回し蹴りは、相手の左小指と薬指を砕いた。
『ぐっ』
キリ「ふー……」
顔を歪めて、砕かれた手を引いた敵に、キリは大きく息をついた。
普段のキリの戦闘スタイルは、完全な正攻法だ。
真正面から、その時、一番の攻撃方法で最も効果のある箇所を狙う。
《お前の判断は正しい。最良の手を選べてはいるが、だからこそ読みやすいともいえる》
それが昔、シカクに言われた言葉。
得意な技術を磨くことも、もちろん大切だが、長く忍をやっていると正攻法が通用しない敵や、自分と相性が悪い敵と必ず遭遇する。
その時に、自分の戦闘スタイルが一つしかないというのは致命傷になると。
《お前の戦い方は見ていても気持ちが良いが、虚をつくような戦いも必要になる》
それから、キリはシカクから嫌というほどその戦い方を教わった。
シカクは強くなることももちろんではあるが、何よりもキリが生き残る術を教えてくれる。
キリ(……シカクさん、ありがとうございます)
シカクの教え一つ一つが、キリの中で生きる。
完全に呼吸を乱された敵を、キリは一瞥する。
せっかく、こちらの突ける穴を見つけたところ申し訳ないが。
戦いにくいのなら、戦闘スタイルを変えてしまえばいいだけの話だ。
やはり、体に染み付いた普段の戦闘スタイルに比べれば、少々攻撃力が劣る上に、動きにくいので、あまり使いたくはないのだが、致し方ない。
今こそ、シカクに叩き込まれたこの戦法を試す時だろう。