第70章 我が師
その勢いのまま踏み込んで、シカクが影を捕らえた敵に、回し蹴りを叩き込む。
それと同時に影を解放された敵は、意識を失っていて、どさりと地面に伏した。
そして、キリが木ノ葉隠れの方角へと走り出せば、敵の包囲網から外れる。
キリ(シカクさん……!)
まだその真っ只中にいるシカクを振り返りながらも、足を止めずにいれば、どくどくと心臓が嫌な音を立て始める。
せめてこの一人だけでもと、キリが対峙していた敵は仕留めはしたが、右手にいたもう一人の敵が戦場へと駆けて来る。
キリ(お願い、私を追ってきて……!)
どうかこれ以上、シカクの敵は増えないでくれと、切望する。
包囲から逃げ出したのだ。追うべきは自分だろうと。
自分はまだここにいると。
そんな祈るような願いも虚しく、敵はシカクのもとへと一直線に進んでいく。
キリ(っ……)
手に汗を握る。
手足の震えも、その酷さを増していく。
たとえ勝てない敵が相手だって、一緒に戦ってくれと言われれば、喜んでそばにいるのに。
一緒に戦わせてくれるのなら、息絶えるその時まで、自分は刀を振るうのに。
逃げろと守られる自分の弱さが、恨めしくて仕方がなかった。
少しずつ遠くなっていくシカクの姿に、キリの焦燥は強まる。
どうか無事でと祈りながら、その戦場を目視すれば、戦況は大きく傾いた。
キリ「!」