第70章 我が師
シカク「そのまま木ノ葉に向かって走れ!!」
キリ「!!」
シカク「ここは俺が押さえる!」
キリ「っ……あ」
「先に行け」と、告げるシカクに反して、キリの足は動かない。
キリ(シカクさん……)
シカクと敵の戦闘を見る限り、相手が二人ではあるが、シカクの方が優勢に見える。
キリ(で、も……もう一人も)
右手にいた敵も、そうこうしている間に距離が縮まり、あと少しでここへ到達するだろう。
ここへ、シカク一人を置いてキリだけが逃げる場面を想像した時。
ぞくりと、キリの背筋が粟立った。
一瞬にして、フミの最期の時が、脳裏に鮮明に蘇る。
キリはあの時。
腹部から血を流して息絶えていたフミの体が、どんどん冷たくなっていくのをどうする事も出来ずに、ただそばで佇んでいるだけだった。
キリ(もし、また……失う、ことになれば)
キリを助けようとしたせいで、フミだけでなく、シカクの命までが失われたら。
そう思えば、足が、体が、硬直して動かない。
普段ならば全面的な信頼を置き、どんな指示にも即座に反応出来るシカクの言葉に、従う事が出来なかった。
硬直どころか、わずかに震えまで出てきたキリに、シカクの怒号が飛んだ。
シカク「キリ! 迷うな! 行け!!!!」
キリ「っ……!!!」
その声に、弾かれたようにキリの体は動いた。