第70章 我が師
ぐらつく視界の中で、敵の拳が迫るのが見えた。
反射でそれを手のひらで受けるという粗末なガードをすれば、案の定キリの手のひら越しに、それは顔面へと到達する。
軽減出来なかった勢いに、よろりと二、三歩後退すれば、背後からシカクの声が飛んだ。
シカク「キリ!!」
さらに敵が追撃を試みようとしているのは分かるのだが、脳震盪でふらつく体は中々言うことを聞いてくれない。
キリ「っ……」
次の手がキリへと届く前に、敵の体は突如、ピタリと停止する。
キリ「!!」
ふと敵の足もとに目をやれば、その影はシカクと繋がっているのが見えた。
キリ(シカクさん……!)
ドッと片膝をついて、ぐらぐらと揺れるそれに耐える。
シカク「キリ、どこをやられた!?」
キリ「いえ、負傷はありません」
シカク「!」
目配せの後、シカクが相手をしている内の一人が、くるりと身を翻し、キリのもとへと駆ける。
シカク「行かせねぇよ」
『!!』
敵の前へ回り、その腹に一撃を入れてもとの位置へと飛ばしてやれば、敵は咳き込みながら立ち上がる。
シカク「てめぇ、誰を相手にしてると思ってやがんだ」
『くっ……』
シカクを躱すことは不可能だと察した二人は、再び標的をシカクへと戻した。
シカクがキリへ目を向ければ、キリはこちらを見ながらも膝をついたままでいる。
シカク「キリ立てるか!?」
キリ「……、はい!」
まだ全快ではないが、目眩はずいぶんおさまってきた。キリはぎゅっと奥歯を噛んで、立ち上がる。