第69章 宝石商の護衛
依頼人「この石は健康、長寿の効力を持つと言われてる」
そう言って、コロコロと手のひらで石を転がす依頼人に、キリは食いつきを見せる。
キリ「長寿? 寿命が延びるんですか? どのくらい??」
ジッと石を見つめるキリに、大人二人からは笑い声がもれる。
シカク「くくっ」
依頼人「はっはっは、パワーストーンの効果に明確な数値はねぇさ。いってみれば、お守りやおまじないに近い」
「どの程度効力があって、それを信じるかは本人次第だ」という依頼人に、キリはそういうものなのかと頷く。
依頼人「お、これなんかはどうだい?」
そう言って、依頼人は可愛らしいピンク色の石をキリに手渡した。
キリ「これは?」
依頼人「ローズクォーツ。恋愛に最適な石だよ」
にっと笑いかけてくれる依頼人に、キリの体がぴくりと反応を見せた。
「良いパートナーに出会えるかもしれないな」と、勧めてくる依頼人に、キリは極力ぎこちなくならないように意識して、笑顔を貼り付ける。
キリ「……私には、無用みたいです」
それよりも、こっちの緑色の石はと。ローズクォーツを依頼人に返して、キリは話題をすり替える。
依頼人「ああ、そっちはーー……」
ふんふんと新たな説明を聞くキリを見て、眉を下げた人物が一人。
シカク(キリ……)
〈自分には無用〉だなんて、悲しいことを言ってくれるな。
そんなシカクの願いは、なかなかキリに伝わってくれない。
シカク「はぁ……」
無意識のうちに、ため息が出る。
シカク(まだ、時間がかかるか)
随分と穏やかになったように見えるが、決して薄れたわけではないキリの傷を感じて、胸が詰まった。
その後もキリは説明を聞いては悩みを繰り返し、それが決定したのは、数十分が経った後だった。