第68章 雨傘
改めていざこざを起こしたいわけではなく、ただ単純に検査の結果について知りたいだけだったのだが。
それにあの時は悪かったと、謝ろうと思っても。
【いえ、あなたは何も悪くないわ。私こそごめんなさい。お願いだから……気にしないで】
過去に聞いたキリのお願いが、それを阻む。
どうしたものかと脳内会議の末、即座に違う話題に移り、この会話は無かった事にしようとの結論が出た。
よし、ならば早速。と、シカマルが口を開こうとした時。
キリは、答えをくれた。
キリ「特に、変わりはないわ。……彼女が新しい薬を用意してくれたから、今はそれを服用して、その効果を調べているところ」
シカ「っ……」
シカ(なんで……っ)
そんなにも辛そうな顔を誤魔化すように、嘘の微笑みをするぐらいなら、その理由を教えてくれればいいのに。
キリが何に、思い悩んでいるのかそれを自分にも分けて欲しい。
でも、キリの願いを聞き入れた自分には、この件についての深入りは許されない。
キリ「ごめんなさい。私はここまででいいわ」
シカ「!」
とにかく元気でやっているから心配は無用だと告げて、キリは二人の真ん中にあった傘を、こちらへと押し付ける。
シカ「待っーー」
キリ「傘、ありがとう」
去っていくキリの腕を掴もうとした手が、空を切った。
シカ「………っくそ」
痛みを訴える胸に、こうして耐えるのはもう何度目だろうか。
この時はまだ、キリの心の動きなどまるでわかっていなくて。
わからないからこそ、こじれ続けていくそれを止める事が出来ずにいた。