第68章 雨傘
キリのことなら、上手くやっているのだろうと思ってはいる。
シカクからもそう聞いてはいたが、やはり人から聞くだけでは、全ての心配は拭えない。
ずっと、キリがいなくなってから、心配だったのだ。
シカ(キリの笑い声、久しぶりに聞いたな)
普段は落ち着いたキリの、鈴を転がすような愛らしい笑い声とその笑顔。
そういえば、この会っていない二週間よりも前から、キリの笑顔をあまり見ていないような気がする。
二人を纏う空気が、ぎくしゃくし始めてる前のそれに、今は少しだけ近い。
それに安堵すると共に、もう一つ気掛かりだったことを、シカマルは口にする。
シカ「あー、あと病院の検査結果どうなったんだよ?」
キリ「!!」
「何か良い兆しはあったのか」と、問いかければ、キリはぴくりと反応を示した。
シカ「キリ?」
空気の変化を、肌で感じとる。
そうしてから、自分の失言に気が付いた。
シカ(あ……)
今更しまったと思っても、言ってしまった言葉はもう戻って来てくれない。
そういえば病院の一件で、キリを怒らせてしまっている。
キリ本人を差し置いて、シカマルと医療員の間で勝手に話を進めてしまった結果、シカマルは検査に行く日も置いて行かれてしまったのだ。
二人の間に最も表立った揉め事であるそれを、わざわざ掘り返してしまった。
シカ「あー……っと」