第68章 雨傘
シカマルの一言で、熱を帯びてしまう身体。
キリは込み上げてきた感情を耐えるために、無意識に息を飲んで、どうにかそれを逃がそうと努める。
…………………………
シカマルは久しぶりにキリがそばにいることで、欠けていた気持ちが満たされていくのを感じる。
家まで送って行ったら、次にいつキリと会えるのだろうか。
ただでさえシカマルは今、誰かに呪われているんじゃないだろうかと思うぐらいに、キリとすれ違いの生活を送っているのだ。
またの機会を待っている余裕はない。
もう毎日、当たり前のように顔を見る事が出来る生活は、無くなってしまったのだから。
シカ「あのよ……」
もし嫌がられたら。
キリの拒絶が怖くて、身体には少し緊張が走る。
シカ「その……もうちょい、どっか歩かねぇか?」
もちろん、欲を言えばキリに家に帰って来て欲しい。
だが、考えがあって、キリは家を出たのだろう。
きっとそれは、大切な何かなのだろう。
ならば、それを無理やり止めはしないから。せめて、もっと話がしたい。
共に修業をして、鹿の住む森に行って、たまには家でヨシノのご飯を一緒に食べる。
それぐらい、許されはしないのだろうか。
すると、しばらくしてもキリからの返答はなく、シカマルは角を曲がればキリの家が見えてしまうその前で立ち止まる。
シカ「……」
そうすれば、キリは何も言わないままだが、同じように足を止めてくれた。ひとまずすぐの解散は避ける事が出来たとみていいのだろうか。
頭の中で話題を探して、慎重に言葉を選んでいく。
シカ「あー、今度またあいつの様子見に行かねぇか?」
キリも今は随分と、鹿には会いに行っていない。
そろそろ会いたいはずだろう。
その言葉に、顔を上げてこちらを見るキリは、ひどく悩んでいるように見えた。