第68章 雨傘
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キリが、居た。
雨に降られて、ああ面倒くせぇなんて思いながら歩く、シカクのお使い帰り。
だが幸いにも、家を出る時にヨシノが傘を持たせてくれていたので、ずぶ濡れになる事は回避出来ている。
しかしながら、強まる雨を見ていれば足もとからびしょ濡れになっていくのは時間の問題だ。
急いで帰ろうと、シカマルが駆け足気味に曲がり角を曲がった時だった。
シカ「!!」
人間、あまりにも驚くことがあると、思考が一度停止するらしい。
ずっと会いたいと思っていたのに、この二週間どうしたって会えなかった人物が、そこにいて。
喜びや嬉しさが湧き上がるまで、少しの時間が必要だった。
シカ「キリ!!」
でも、一度湧いてきたその感情は、堰を切ったように溢れ続ける。
考えるよりも先に、駆け出していた。
人形のように、ぴたりと固まっているキリが、何処かへ行ってしまう前に。早くそばに行かなくてはならない。
一直線上にいるキリとの距離は、そう遠くないはずなのに、そこに着くまでの時間が不安で仕方なかった。
キリ「久しぶり、ね」
キリの前まで来て、あとキリに触れるまで1メートルといったところだろうか。
雨音に遮られながらも届いたキリの声が、たった二週間なのに懐かしく感じる。
シカ「おう」
キリの青い瞳が、自分を写していた。
そしてキリの薄い唇が、開かれる。