第66章 別々の道
シカク「あと」
キリの体を離して、シカクはキリの肩に手を置くと、ニッと口角を上げた。
シカク「逃げるのも確かに大事だが……いけると思うならキリ。お前一人でやっちまえ。その判断はお前に任せる」
「遠慮なくやってやれ」と、あごを上げたシカクに、キリは数瞬ぽかんとした表情を見せたあと、力強く頷いた。
キリ「はい!!」
…………………………
ヨシノ「はぁ、本当に出ていくんだねぇ……」
シカク「……そうだな」
居間で、お通夜のような空気を醸し出しながら、奈良夫妻はため息を落とす。
ヨシノ「何も今日でなくてもいいのに……」
あまりにも急なキリの判断に、こちらの気持ちの整理が追い付いていない。
普段から物も置かず、綺麗にされているキリの部屋だが、世話になったからと、キリは今張り切って床や窓を磨いている。
「それが終われば出ようと思う」と告げたキリに、ヨシノがもう食材を買ってあると嘘をついて、なんとか晩ご飯までここにいる事を引き延ばす事に成功したが。それもあと数時間の話だ。
ヨシノ「なんだってこんなに急に……。寂しいったらないよ」
しょんぼりと肩を落とすヨシノは、湯飲みに残る茶をぼんやりと見つめる。
シカク「……心当たりがある」
そう言って立ち上がり、ヨシノに晩ご飯までには戻ると告げて、シカクは家を後にする。
残りの時間をキリと過ごしたくもあるが、それはヨシノに任せよう。
今はとりあえず、文句を付けてやらないといけない人物がいる。
シカク「あの野郎……っ」
怒気を辺りに散らしながら、シカクは地を蹴る力を強めた。