第66章 別々の道
ヨシノ「じゃあ、どうして家を出るのか聞いてもいいかい?」
キリ「それは……」
この話題を切り出せば、それを問われることは分かっていた。
だから、あらかじめ答える予定だったものを、キリは口にする。
キリ「感謝はしていますが、やはりいつまでも甘えてお世話になり続けるのは、少し気掛かりです」
甘えに甘えて、もう何ヶ月もキリはこのあたたかい家族の中にいる。
シカク「それ以外には」
キリ「!」
シカク「それだけが理由じゃないだろう」
シカクを見れば、真っ直ぐなシカクの視線がキリへと向けられる。
キリ「はい。さっきの言葉は……少し本当です。でも、これが家を出たい理由だということにしてもらえませんか」
「どうかお願いします」と頼めば、シカクとヨシノは困ったように、互いに顔を見合わせた。
シカク「キリ。俺たちはみんな、お前にここに居て欲しいと思ってる。誰一人、欠片だって迷惑だなんて思っちゃいねぇ。それでも出て行きたいか?」
そう言えば、キリは頷いて肯定の意を示した。
シカク(……そりゃあ、わかった上での発言だよな)
近頃のキリならば、そういう気持ちも全て含めて伝わっていると、シカクも自負している。その上での話だとは、わかってはいるが。
親心としては、やはり引き止めたいではないか。
シカク「言っとくが、担当上忍だから面倒を見ないといけねぇとか、そういった話じゃねぇ。それぞれみんな、お前のことが好きで大切に思うから、一緒に暮らしたいと思ってる。それでもか?」
キリ「………はい。ありがとうございます」
ほんの少しの沈黙のあと、キリは深く頭を下げた。