第65章 優しい人
じっとこちらを見つめるシノに、キリは眉を下げて微笑んだ。
キリ「……ありがとう」
ひとつ、聞いてもいいかと問えば、なんだとサングラス越しにシノの瞳が見えた。
キリ「……あなたって、照れ屋さん?」
シノ「!!」
ピタリとシノの手遊びが止まって、キリはくすくすと笑い声をもらした。
シノ「……俺も、ヒナタも口達者な方ではないからな」
「どうにも慣れない」と、言いながら飛ばせたシノの虫を、キリは自らの指先に止まらせる。
キリ「でも、何かの時にあなた達は、誤魔化したり嘘をつくんじゃなくて、真っ直ぐに伝えてくれる」
上辺だけで答えたり、流したり、そんな小細工は一切無しで、ただただ真っ直ぐにそれを伝えてくれるのだ。
キリ「あなたも、ヒナタも」
ひょいっと指先から虫を放てば、飼い主のもとへと戻り、シノは再びそれを手の甲で遊ばせる。
シノ「そうか」
キリ「ええ」
やはり少し恥ずかしそうなシノに、つい笑みを浮かべていると、シノはキリの方へと虫を飛ばした。
シノ「キリ、お前が自分の性格について思うことがあるなら、あいつに聞いてみるといい。近くに適任者がいるだろう」
少々強引に話を変えたシノに、また少し笑って、キリは小首を傾げた。
キリ「適任者?」
手の上をトコトコと歩いていく虫に合わせて、手をくるくると回していると、そこに落とされた名前にキリの息が止まった。
シノ「シカマルだ。あいつは仲が良いからと、思ってもないことは言わない」
キリ「あ………そう、ね」
不意に現れた名前に、まるで準備が出来ていなかったキリは、上手く対処出来ずに言葉を詰まらせる。
シノ「それに、お前とシカマルが一番一緒にいるんだ。あいつの方がお前の事をよくわかっているだろう」
キリ「っ……」
何ともタイムリーな名前と内容に、とくんと反応してしまったキリの心臓を、服の上からそっと押さえる。