第65章 優しい人
シノ「あれから、俺たち8班のチームワークは格段に良くなった」
キリ「そう、それは何より」
シノ「それに……ヒナタが、家の事をよく話すようになった」
キリ「!」
シノ「前までのヒナタなら、日向家の話を持ち出してくる事は、まず無い。だが、今は父様がどうしたとかネジ兄さんがどうだとか、そういった話題が増えた」
キリ(ヒナタ……良かった)
どうやら、その後もヒアシやネジと良好な関係を築いているようで、キリは微笑みを落とした。
シノ「お前が宗家に乗り込んだと聞いた」
「当主を相手に大暴れしたのだろう」と、シノに言われて、キリは少し困ったように空笑いを浮かべる。
シノ「ヒナタはその時の話を、大事そうに語っていた。そして、ヒナタが家の話をすることで、キバもよく話すようになった」
シノの手のひらや手の甲に、這わせている虫を何ともなしに二人で見つめる。
シノ「キバも、あれはあれで気を遣う男だ。今までヒナタを前に、家族関連のことは話し難いところがあったんだろう」
会話が随分と増えたのも、キリのおかげだとシノは告げる。
シノ「キリ、お前はいい奴だ。ヒナタはもちろん、俺もキバもお前の事を好んでいる」
そう語りながら、シノはぶーんと、虫を指先から飛ばしたり戻したりを繰り返す。
キリ(あ……)
シノ「他にもそう思っている奴らはいる。少なくとも同期の連中はみなそう思っている」
虫の手遊びが、シノの照れ隠しだと言うことに、キリはようやく気が付いた。
口数が少ないシノが、落ち込んでいるキリのために、こうも語ってくれているのだ。
シノ「……これでもまだ、悩むのか」