第65章 優しい人
第65話 優しい人
キリ(…………)
最近の自分は、一体何をしているのだろうと、自己嫌悪に陥る。
以前は微塵も感じなかったのに、いつからか息苦しさを覚えるようになった病室。
もう一度深くため息をついて、キリは病室を出る。
少しでも気持ちを切り替えたくて、近くのロビーに出れば、そこに見知った顔を見つける。
キリ「!」
シノ「久しぶりだな」
キリ「ええ、久しぶり」
元気そうに見えるがどこか悪いのだろうかとシノの様子を聞けば、母が入院しているらしく、その見舞いに来ていると告げられる。
キリ「大変なの?」
シノ「いや、心配には及ばない。もう数日で退院する」
その言葉に、ひと安心していると、シノはジッとサングラス越しにキリを見つめる。
シノ「俺よりも、キリ。お前の方が大変そうに見えるが」
キリ「!!」
「何かあったのか」と問われて、キリはそんなにも態度に出てしまっているのだろうかと、眉を下げた。
シノ「どこが悪いんだ」
最近、「病院でキリを見かけることがある」と言ったシノに、キリは首を振る。
キリ「私は検査のために来ているだけだから、何かが悪いわけではないわ」
シノ「なら、その検査がつらいのか」
キリ「それも……違うわ」
シノ「そうか……その割には随分とつらそうだが」
キリ「それは……」
医療員の心遣いの溢れる検査過程が、つらいわけがない。
ただでさえ、樹の里では狂いそうな程の痛みが伴う薬物投与が、日常的に行われていたのだ。
その手の耐性なら、忍の中でも相当なレベルにあるだろう。
そんな事が理由で、痛むのではない。
キリ「私、酷く性格が悪いみたい」