第64章 幾多の恋心
打ちひしがれているシカマルを見て、シカクは思考を巡らせる。
【キリ、行くのか?】
【はい、今日は先に行きます】
シカクの問いかけに、キリがあまりにもサラリと答えるものだから。
もとより別行動の予定だったのだろうと思っていたが、シカマルの様子を見ていれば、どうやらそれは違ったらしい。
シカク(……ちっと面倒なことになってるみてぇだな)
…………………………
一人病院についたキリは、受付に案内された病室にて、待機していた。
キリ(……お、置いてきてしまった)
シカマルと一緒に行くつもりだったのだが、シカマルの姿が見えなくなって、こう……つい。
帰ってからどう説明すべきかと、後先考えずに、その時の感情で動いてしまったことに後悔する。
キリ「!!」
そこにぱたぱたと近付いてくる足音。キリの背筋が無意識に伸びた。
『お待たせしました』
にこりと愛らしい笑顔と共に、現れた医療員。
すぐにシカマルの姿が無い事に気付いた彼女は、小さく首を傾げた。
『今日は、キリさんお一人ですか?』
キリ「っ……ええ」
後ろめたい気持ちが広がり、医療員の顔を見れなくて、キリは床を見つめて答える。
がっかりするだろうか。
残念に思うだろうか。
ただでさえ、彼女はよほど偶然が重ならない限り、この検査の日にしか、シカマルに会うことはないのだ。
キリ(っ……悲しませたいわけじゃないのに……)
きゅっと、口を結んでいれば、鈴を転がすような声がキリの頭上に落ちる。
『そうですか。では、早速始めましょう! キリさん! 新薬というのはこれなのですが~~』
キリ「!」
嬉々として薬を掲げ、次々とその効力の説明をしていく医療員に、キリは呆気にとられる。