第64章 幾多の恋心
しかも、キリからお願いだから気にしないでくれと、あんな風に言われてしまえば、それ以上の言及は出来ない。
あのカカシであれば、それも可能だったかもしれないが、シカマルには無理だ。
キリが、話したくないと思うことを、無理に聞き出すことはしたくない。
キリが自ら話してくれた時、自分はそれに全力で耳を傾けて、力になれるように尽くせばいい。
今までずっと、そうやってきたのだ。
………………………
結局あのあとは、この空気をどうにかしようと、シカマルがぽつりぽつりと普通の会話を広げて。
またキリがそれに、違和感もなく自然に返すものだから、それが酷く気持ち悪かった。
その日の晩も、翌日の朝も昼も。
普段通りのキリに、なんだか釈然としないまま、シカマルは昼食後に一旦自室へと戻る。
今日は後にアスマ班での修業を控えているため、キリの病院へ付き添ったあと、そのまま修業へ向かうつもりだった。
シカ(こんなもんか)
さっと忍具の準備を整えて、居間へと戻ると、先ほどまでいた人物がそこにいなくなっていた。
シカ「親父、キリは?」
きょろきょろと辺りを見渡すシカマルに、シカクは不思議そうに口を開いた。
シカク「キリなら先行くっつって出てったぞ」
シカ「!!」
その言葉に、シカマルはがくりと床に両手両膝をついた。
シカ(お、置いていかれた)
いくらなんでも少し酷くないだろうか。
数分。ほんの数分、部屋に戻っていたその隙を見計らって、黙って出て行くなんて。
シカ(くそっ、んだよやっぱキリのやつ、むちゃくちゃ怒ってんじゃねぇのか……?)