第64章 幾多の恋心
シカ(予定を勝手に決めようとした、からか?)
思い当たるとすれば、それしかない。
もしかすると、キリは誰かと修業の約束をしていたり、そうでなくとも、特別意気込んで修業に取り組もうと思う何かがあったのかもしれない。
シカ(……よし、とりあえず)
謝ろう。それがいい。
平謝りでも構わない。
キリと喧嘩なんて、なんの足しにもならないような事は全力で回避したい。
女の機嫌を損ねてしまった時の対処法は、よく知っている。
なりふり構わず、相手が許してくれるまでひたすら謝り続ける事。
いつも、シカクがヨシノにするそれだ。
シカク曰く、相手がこちらの勢いに押されて、呆れて笑ってしまうまでいけば、こちらの勝利だそうだ。
シカ「……さっきは悪かったな。キリの都合考えずに言っちまった」
さあ来い。今こそ、父親の背中を見て育ったこの知識を活かす時だ。
こちらの準備は万全である。
気持ち充分にそう言えば、キリは少しだけ視線を伏せた後に、こちらを振り向いた。
シカ(よし、来い)
どんな言葉が来ても、こちらの第一声は「すいませんでした」十中八九それが正しいらしい。
そして、その際に場所や周囲を気にかける必要はない。そんな事は些末な事だそうだ。
こちらの謝罪スキルが低ければ低いほど、相手は鬼と化すため、注意が必要だと聞いている。
ドキドキとキリの言葉を待っていれば、その薄い桃色の唇は開かれた。
キリ「いえ、あなたは何も悪くないわ。私こそごめんなさい。お願いだから……気にしないで」
シカ「すい……お、う……」
ありがとう、そう小さく呟いたキリは、再び前を向いて歩き始める。
キリ.シカ((………))
訪れた沈黙に、シカマルは首を傾げながら、キリの後に続く。
シカ(喧嘩……に、ならなかった場合は)
ヨシノであれば、全くそうだと怒涛の責めが始まるのだが、始まらない。
シカ(どうすりゃいいんだ?)