第64章 幾多の恋心
明日は何か予定があるのではないのかと、心配そうに顔色を伺う医療員に胸を痛めながら、キリは小さく首を振った。
キリ「いえ、明日は……1日修業をしようと思ってた、だけ」
嘘とも本当とも言えないそれに、何とも言いようがない気持ち悪さが募る。
キリ「だから、明日にまた」
『そう、ですか。では、お待ちしています。でも、忙しいようなら、無理をなさらないで下さいね』
キリがそれに頷いて、三人は気まずい空気に包まれたまま、本日は解散になった。
…………………………
帰路を歩くシカマルとキリの間には、やはり先ほどと同じく、気まずい空気が漂っていた。
むしろ、医療員という彼女の存在がなくなり、緩和材がなくなったことで、その空気は酷く悪化しているように思う。
キリ(……………)
シカ(……………)
病院を出た後、互いに一言も発さないこの沈黙が、じわじわと心臓の辺りを重くさせる。
ちらりとシカマルが横目でキリを見れば、シカマルの少し前を歩いているキリの表情は見えない。
シカ(……久しぶりに、聞いたな)
キリのあの冷たい声色を。
もうずっと聞いていなかったそれに、情けないほどに、臆している自分がいた。
自分は何か要らない発言をしてしまったのだろうか、だから、キリはあのような態度になったのだろう。
シカ(あいつが原因だとは思えねぇしな)
医療員である彼女。
最初の頃こそ、変な女だと思っていたが、なかなかどうして好感の持てる人物だった。
キリのためにと、誠心誠意を尽くし、取り組んでくれるあの姿に、嫌悪する人間はまずいないだろう。
そんな医療員の発言に、どこか気を悪くする箇所など、存在しなかった。
シカ(となると、原因は俺……だよな)
しかし、その原因がわからない。