第64章 幾多の恋心
シカ「確か明日はキリも休みだったよな」
『本当ですか、良かったです!』
シカ「昼飯食ってから病院行くか」
『はい、そうして頂けると丁度良いと思います』
「すぐに処方出来るように、準備をして置きます」と、医療員は笑顔を見せる。
とんとんと二人で進んでいく会話と同時に、キリのザワつきも比例するように大きな音を立てていく。
キリ「どうしてあなたが決めるの?」
キリ.シカ.医療員「!!」
出てきた言葉と声色が、想像よりもずっと冷たいものだったことに、キリ本人が一番驚いていた。
シカ「……あ、わ、わりぃ。なんか予定あったか?」
『す、すみません。私こそ舞い上がってしまって……』
しゅんっと申し訳なさそうに、視線を下げる二人に、キリの心が激しい痛みを訴えた。
キリ「っ……」
キリ(私……っ……もう……)
やめてくれと、心から思った。
シカマルも医療員も何一つ悪くない。そんな顔で今の自分を見ないで欲しかった。
それよりも、何より、自分のザワついて止まらない気持ちと。
そんな言葉を発してしまった自分に。
もうこれ以上はやめてくれと、心の底から切望する。
キリ「……ごめんなさい。明日また来るわ」
『あ、いえ! 私こそ失礼しました』
先ほどまで、新薬への期待に胸を躍らせていた医療員は、すっかりと小さくなってしまった。
キリ(彼女は、私のために喜んでくれていたのに……)
そんな彼女に対する申し訳なさが、キリの心を占めていく。