第64章 幾多の恋心
キリ「ありがとう」
『いえ、そんな!! 私の仕事ですし、むしろ身体に合う薬を中々見つけられなくて本当にすみません』
「必ず見つけ出してみせる。無ければ調合してでも探し出す」と、意欲を示す彼女に、キリは少し眉を下げて微笑んだ。
医療員と一緒にいればいるほど、彼女の清らかさというのか、優しさと情の深さが伝わってくる。
キリの身体を労り、ほんの少しだって身体に負担をかける可能性がある薬は、決して使用しない。
何よりも、患者第一の彼女は、包帯を巻く作業一つにも手を抜かない。
今もくるくると包帯を巻いていく彼女は、突如、ピタリと動きを止めた。
キリ「どうかしたの?」
『キリさん! そう言えば、明日! 明日に! 新しい薬が届くんです!!』
思い出したようにハッした医療員は、その直後、ふわりと笑顔を咲かせた。
『それなら、もしかしたら効果があるかもしれません! 度々足を運んでもらうのは申し訳ないのですが、明日も来ていただけないでしょうか』
この手の薬はどうしたって、生傷に実際試してみないと効果がわからない。任務直後の今が最適なのだろうというのは、充分にわかっていた。
だが。
それとは裏腹に、気持ちは簡単にイエスをくれない。
キリ(明日も、ここへ……)
本来ならば、一週間から十日置きに訪れるはずの検査日。
今日が終われば、しばらくはこの胸が痛む空間に。病院に居なくて済むはずだったのだ。
そんな新薬に、興味を示したのは隣にいる彼だった。
シカ「へぇ、その薬はいつ届くんだ?」
『っ! た、確か昼に到着予定です。なので、それ以降に来ていただければ大丈夫です』
突然話しかけられて、まだ少したどたどしくはあるが、当初よりも随分シカマルに慣れた医療員の姿がキリの目にうつる。
キリ(…………)
これが、何よりも嫌だった。
この内側でザワついている感情が、何よりも煩わしくて仕方がない。