第64章 幾多の恋心
第64話 幾多の恋心
足音と気配を極力消して、キリが下階へと向かうと、それに気付いたシカクが、ふわりと優しい笑顔を向けてくれる。
シカク「キリ」
その笑顔に、あたたかくなる胸が幸せで痛かった。
キリ「検査に行ってきます」
定期的に病院で行われる検査も、薬物耐性があるキリの治療時にも対応できるようにと、火影が配慮してくれたことだ。
シカク「お、今日検査日だったか。つい先日まで任務だったのに大丈夫か?」
キリ「問題ありません」
実際怪我をしていた方が、治療薬の効き目がわかるだろう。
しかし、そんな任務の疲労等はどうだっていいから、早く家を出てしまいたかった。
それでなければ。
シカ「キリ、病院行くのか?」
キリ「………」
ほら、こうして。危惧していた出来事が起こってしまうのだから。
キリ「……ええ」
シカクにたった今、検査に行くと伝えたばかりでは、誤魔化しようがない。
シカ「ん。俺も行く」
キリ「一人で大丈夫。あなたも疲れてるでしょう」
シカ「いや、大丈夫だ。付き添うだけだしな」
「行く」と、隣に並ぶシカマルに、キリの心に鉛が沈む。
「疲れてるでしょう」なんて、そんな言葉に優しさや気遣いなどは、まるで含まれていなくて。
ただ来ないでくれと、思う気持ちをぼかしただけだ。
…………………………
病院へ到着したキリには、3種類の回復薬が用意された。
任務中に出来た傷に、それぞれ違う回復薬を使用し、その経過を見るそうだ。
『どれか少しでも、効果があれば良いんですけど……』
うーんと難しい顔をして、傷口に薬を塗っていく医療員は懇切丁寧で優しい手つきだった。