第63章 身を置く場所
〈木ノ葉の腑抜けども〉
そのフレーズが引っかかったキリは、伏せていた視線を上げた。
キリ「……有難いお話ですが、お断りさせて頂きます」
雷影「なぜだ」
「雲隠れに来た方が間違いなく伸びる、強くなれる」と、豪語する雷影。
それに、おい木ノ葉の忍のどこが腑抜けているのか一から説明してみろ、その頬にもう一撃入れてやろうかとは、さすがに言わないが。
キリは内心、荒れ模様であったが、穏やかに対処する事に努めた。
キリ「私は、木ノ葉隠れの忍だからです」
雷影「!」
雷影は片眉を上げて、キリに尋ねる。
雷影「前に会った時には、樹の里の忍だと言っていたが?」
キリ「……自分自身、驚いています」
雷影に言われた時、すぐにこの答えは出ていた。
それでも即答出来なかったのは、自らの心境の変化についていけなかったからだ。
雷影「では今は、樹の里ではなく木ノ葉隠れの忍だと?
キリ「……はい」
雷影「ふむ、ではお前の師は誰だ」
キリ(……)
ひと呼吸。
大きく息を吸って、答えるその姿は、雷影の目からひどく凛として見えた。
キリ「師は……奈良シカク。はい。私は、火の国、木ノ葉隠れの里の忍です」
雷影「奈良シカクとは、先程いた黒髪の方か」
大事な時には、いつもキリと雷影の間に入るあの忍の事だろうと聞けば、キリはこくりと頷いた。
じっとキリの瞳を見ると、そう時間は経たずして、雷影は説得の無意味を悟る。
雷影(惜しい……が、これは褒美で動くものではない)
褒美や待遇を華美にしたところで、キリは首を縦には振らないだろう。
ならば、雲隠れに交渉の余地はない。